UP20020412

Hearts - Act.1 Black Color





 群馬県本部であれば、郁実は実家から職場に通える事になる。近場にアパートを借りる事もできるが、それは無意味だ。独身寮にも空きはない。放任ながら心配性の母親のいる自宅から通うのもどうかと思ったが、考えてみれば警ら課にいた一時期を除いて、学生寮にいた頃から数えて10年近くも家から離れていたのだ。この機会に埋め合わせをしてやっても良いだろう。
 郁実は無人の我が家に帰り着くと、手持ちの邪魔な荷物を放り込んで再び駅へと向かった。両親には帰り着くのが明日になると伝えてあるから、今日は父も母も仕事に出ているのだろう。もっとも、母はともかく父は高校の教師をしているから、滅多な事ではその仕事を休んだりはしない。
 郁実がしばらく電車に揺られたあとで降り立ったのは、北海道にも負けないくらいの深い雪に沈むように存在する、小さな駅だった。
 水上。
 群馬県北部に在る小さな町。
 郁実の実家は南部の市街地にあるから、一年を通して雪などは数えるほどしか降らない。しかし、山間にあるこの地は冬になると積雪量は1mに及ぶ事もある。同じ県内でも、それほどの差があるのだ。
 懐かしいホームに立つと、正面に見える改札口の向こうに、良く知った人物の影が見えた。郁実は足早にそこへと向かうと、改札を抜ける。そこに先程の人物の姿はなく、ついと見回すと、その人は駅の出口あたりに移動していたようだった。
 郁実がゆっくりと近付くと、こちらをまっすぐに見詰めていた長身の男は、かけていたサングラスを静かに外した。
 榊皇惟(さかき・かむい)。
 大和武尊高等部時代、非常勤魔術講師として生徒の実習を受け持っていた正退魔官だ。
 雪に包まれて真っ白な世界に、黒ずくめのいでたち。静かな瞳と少し長めの黒髪もそのままで、微かに年を取った感もあったが、郁実が卒業した当時と、ほとんど変わりがない。
「よう」
「こんにちは」
 久しぶりの再会とも思えないそっけない態度を取る二人。
 傍から見れば何事かと思うかもしれないが、当の本人達にしてみれば、これで違和感はないようだった。
「変わらないな」
 榊が呟く。
 郁実の方も、榊に負けず劣らず変わらなかった。卒業した時に短く切った髪も、最近はまた長くなりつつあるので学生時代とあまり変わらない長さになっているし、ツーポイントの眼鏡もそのままだ。
 二人は言葉少なのままバスに乗り、番外地を目指した。郁実の母校、高等専門学校大和武尊がそこにある。
 バスを降りて、関係者の間で有名な心臓破りの階段を昇っていくと、これもまたほとんど変わりのない学校の姿が見えた。
 敷地には足を踏み入れず、その場で立ち尽くす二人。
「久しぶりの学校はどうだ」
 榊が、となりの郁実を見る。
「……どうという事もないな。卒業して五年足らず、ずっと忙しかったし、学生時代なんて昨日の事みたいだ」
 本当に何の感動も無さそうな郁実の様子に、榊は苦笑した。
「相変わらず可愛気のない奴だ」
 この男に可愛いなどと思われても困る。そうでなくとも元講師と生徒、弱みなどは数え切れないほど握られているのだろうし。
「群馬県本部への異動は……これからか」
「はい」
 本題に入りつつあるらしい話題の転換に、郁実は気になっていた事を口にした。
「大和武尊の講師を、辞めるのか」
「ああ」
 辞令の後で郁実に来た話は、これであった。
「俺もそろそろ、潮時って訳だ。俺はこれからは本部の方で退魔官の指導職につく事になる。かったるいが、仕方ないな。退魔官を辞める訳にもいかないだろうから」
 退魔官であった認定術師がその職を辞するには、やはり色々と面倒が付きまとう。
「能力が?」
「そういう事だ」
 術師の特徴として、年齢制限がある。術を駆使する彼らの多くは、30代も半ばになる頃には魔術を使えなくなってくるのだ。退魔官の場合、多くは指導職につき、その経験を生かして現場の監督になったりする。榊は、その年齢に到達しつつあった。
 大和武尊には多くの術師が講師として勤務しているが、実習の非常勤講師であった榊の場合、魔術が使えなくなってしまっては当然御役御免となってしまうのだ。実技ではなく教養の方面で学校に残るという手段もない訳ではないが、榊にはそこまでの学校に対する執着もないし、また性格的にも性に合わない。それに実際のところ、大和武尊の講師というのは本来の退魔官としての仕事と併行していかなければならないから、案外大変な事でもあるのだ。
「それで、どうして俺に?」
 郁実が疑問を口にする。
 榊は、実技講師の後任として郁実を推薦したのだ。群馬県本部に空きができたのをいい事に、大和武尊の話と共に郁実の異動を榊が上に進言した。
「誰でも良かった……と言ったら、お前は怒るか? まあ、ちょうどお前の地元の群馬県本部に欠員ができたしな。お前は俺の実技をその身体で受けているし、印象に残った生徒のひとりでもある」
 大和武尊の歴史自体まだ浅いが、その中でも郁実の在学中に起こった『プロジェクト・ピサ計画』は記憶に新しく、今でも関係者の心に深く楔を打ち込んでいる。
 俗に『P2』と呼ばれたそのプロジェクトは講師の間で画策された事件であったが、学校全体を巻き込み、生徒、講師共に多くの殉職者を出した。この後に退魔庁長官が変わったのも、この事件の関連であろうと思われる。本当に、多くの人間の運命を変えた出来事だったのだ。
 その『P2』の時に多くの講師、生徒と同じように、しかし独立した計画『刻鏡』で行動を共にしたのが、榊と郁実だ。
 怪談として噂された、個人の持ち物が満月の夜に紛失するという『刻鏡』の事件。それを起こしていたのはP2に参加していた榊だったのだが、それが知れた後は刻鏡を調査していた多くの生徒がP2の存在を知り、その計画に参戦する事となった。その時の刻鏡グループのリーダーが郁実だった事もあって、榊と郁実は何かと接触する機会も多かった。一時、険悪な時期などは周りの者がひやひやするようなムードで言い合いをした事もあるが。
「さすがに、俺の胸倉を掴んだのはお前くらいだったな」
 実際のところは、他にも榊に手を出した生徒はいる。しかしそれは榊が軽くあしらえるような類のもので、傍から見てもあまり問題はなかった。一方、郁実の場合は本気で榊を怒らせかけていたので、周りで様子をうかがっていた者はたまったものではなかった。
 あの時の事を思い返し、郁実は小声で「すみません」と呟いたが、本当に悪いと思っているような仕草でもない。榊の方も、さして気にしている風でもなかった。この辺は、当事者同士の事情というものだろう。
 榊はそのクールなイメージと整った容姿のせいで多くの女生徒の人気を一人占めにしていたが、同時に何とも近寄り難い雰囲気も兼ね備えていた。常に黒系の衣装に身を包み、その瞳の奥は深く、容易に見透かす事ができない。クリスマスやバレンタインには多くの女生徒に追いかけられたが、その懐にまで入り込もうとする者は誰もいなかった。
 それだけ、どこか人に怖れられる存在だったのだ。
 そういった意味では、確かに郁実は榊の印象に残る生徒だったかもしれない。『刻鏡』の件で榊のやり方に異を唱える者はいたが、榊本人の性格そのものに近い部分に難癖をつけたのは郁実くらいのものだったから。
「お前みたいな奴が、ああいう事に向いていると俺は思う。真面目で邪気がないしな。俺と同じ退魔師でもあるから、引継ぎが楽だし」
 術師の中にも、いくつかの種類がある。退魔師や陰陽師、傀儡師など、個人の適性により、数多くのクラスが存在するのだ。
 郁実も榊も、クラスは退魔師だった。退魔師は『対妖魔』の代表のようなクラスで、その術の殆どは妖術、妖魔にのみ効力を発揮し、人間には効かない。だから退魔官の中でも、郁実のように機動捜査課や捜査一課(対妖魔事件捜査)に配属される者が多い。
 術師であっても人間だから、そういった力を利用して犯罪に走る者もいる。しかし、そういう『人間』の起こす魔術事件を追う捜査二課のような部署には、退魔師は向かないのだ。
「群馬県本部への異動も半分はこの件が絡んでいるが、それとこれとは別と考えていい。大和武尊への赴任の方は、気が向かなければ断ってもいいが、どうする?」
「……」
 北海道でその話を聞いた時から今日まで、郁実はずっと考えていた。まだ一人前とは言えない自分が、未来を担う学生達に妖魔打倒の術を教授する。それも、退魔官の仕事と併行してだ。多少他の退魔官とはスケジュールが異なるだろうが、果たして自分に務まるか。そうでなくともこの榊の後任だ。その肩にかかるプレッシャーは充分すぎるほどである。
 しかし、いつまでも半人前だと言っていられるほど、術師生命は長くはないのだ。
「せっかくの榊先生のご指名ですから、謹んで受けさせていただきます」
「……そうか」
 抑揚のない郁実の言葉に、榊も同じように返事を返した。
「何故、引き受けようと思った?」
「同じ場所に立ったら、あんたの考えも知る事ができるんじゃないかと、思った。あの時、本当は何を考えていたのかも」
 榊は静かにため息をつく。笑ったようにも、見えた。
「相変わらず子供だな。お前がこれから知らなきゃならないのは、そんな事じゃない。俺が何を考えてどんな行動をとるかなんていうのは俺の個人的動機で、他人がどうこう考えなければならない事じゃない。お前はこれからまだまだ多くの命を預っていかなければならないんだ。間違えるなよ」
「わかってる」
 けれど、郁実は考えを変えなかった。
 あの時。P2の事件の時、榊はその計画の全てを生徒達に暴露したように見えたが、どこか、何かが違っていた。気付いたのは郁実だけではない。刻鏡に関わった生徒の何人かが抱いた榊に対する訳の解らない疑いを、誰も解決する事無く卒業してしまった。
「それに……俺が何を考えて行動しているかなんて、多分お前のような奴には、一生かけても解らないさ」
 それも、わかっている。
「今から言っておくが、術師クラスを見ても明らかだが、お前の弱点は妖魔よりもむしろ人間にある。お前の持つその正義感は時には有効だが、それ故にお前には計り知ることのできない感情というものもある。お前のお綺麗な考えでは到底理解の及ばない、な。他に対する憎悪や破壊行動、快楽主義……そういうものも、これからいくらでも諌めていかなければならないんだ」
「たとえば、あんたのような?」
 そう言って自分を見つめる郁実の目を、榊は静かに見返した。郁実は目をそらさない。
「……そうだ」
 榊は笑った。
 郁実は知っていた。榊の中には何か得体の知れない深い闇が存在していて、それは誰にも触れる事ができない。榊が能力に目覚めた頃は、ちゃんとした教育機関もなく、色々な事が不安定な時代だったから、想像もしたくないような経験もしてきただろう。
 他の抑圧や、さまざまな制限。
 人にあるまじき、不可解な力を持つ自分。
 ――そこに存在する想いは、如何なものであったか。
 彼はそれを原動力として動き、時々理解不能な行動をとったり意味不明な発言をしたりする。一見他の人間と変わらないこの男の持つ、特有の心の色。
 榊と同年代以上の人間は皆同じ条件だった訳だから、榊がこうなったのには、何か他の要因がある筈だ。
 それが何であるか、その感情がどういった形の物なのか、それは謎のままだったが。
 だからこそ、郁実はこの男の考えというものを知りたいと思った。
 いや、知らなければならなかった。
 これからも訪れるであろうさまざまな事件の裏に隠される、人の心模様。それらをきちんと理解し、解き明かすための鍵が、榊の中にある。
「まったく、呆れるほどお前は変わらん。お前のそのあり方は、諸刃の剣にだってなるぞ」
「……もう、昔の俺じゃない」
「変わらんさ。相変わらず乳臭いままだ」
「……俺は」
 郁実は、我知らずの内に、静かに深く息を吸い込んだ。
 多分自分はこれから、言ってはならない事を、この男に言おうとしている。
「ずっと思っていた。あんたが何者でも良い。何を考えていても構わない、ただ、俺の手の届く場所であんたが何かを壊そうとするような事がもしもあるなら、それを全力で止めようと」
「……できると思っているのか?」
 榊が郁実に向ける、侮蔑にも似た眼差し。学生時代の郁実であれば、負け犬の如く噛み付きにかかって行きそうな強い眼光。
「できる」
 根拠のある自信ではない。正直なところ、榊が本気を出したら郁実の敵う相手ではない。しかし、それを認めてしまう訳にはいかないのだ。『できなくてもやる』というのは、それこそが無謀の証。たとえ真実がそうでも、それを口にする事はできない。これは郁実の、プロフェッショナルであるがゆえの強がりだ。
「……昔に輪をかけた強情さだな。お前は、いつもそうだ。不精なくせに生真面目で、誰の想いも受け留める割に、受け容れない。無愛想で生意気で、そのくせ内面は馬鹿げて繊細ときてる」
 腹立たしいと言わんばかりに、榊は押し殺した声で言い募った。その手が懐を探り、煙草を一本取り出す。その先に慣れた手つきで火を点すと、ゆっくりと紫煙を吐き出した。
 ひょいと、郁実にも箱を勧める。「どうも」と言って一本抜き取った郁実を、榊は自分で勧めたくせに意外そうな顔で見つめた。
 榊が火を点したライターに、郁実がくわえた煙草をそっと近付けると、微かな赤の色がその先端に生まれる。
「ごく最近ですよ。それに俺はほとんど吸わないから、一ヶ月なくたって別段困らない」
 そんな事なら、いっそ吸わない方がいいと苦笑する榊に、郁実は笑い返した。
「でもおかげで、解る事もある。あんたがそうやって人前で煙草に火をつける時、どういう状態でいるのか、とか」
 榊は、ほんの一瞬顔をしかめた。
 榊が煙草を吸うのは、大抵は誰もいない場所である。郁実が学生の頃は、それはほとんど校舎の屋上であった。吸っている現場を誰かに邪魔される事はあっても、人前で進んで火をつける事はなかった。
 だが一度だけ、榊が生徒である自分の前で煙草に火をつけた事があるのを、郁実は憶えていた。
「本当にお前は、人の神経を逆なでするような事を平気で口にする」
「得意なんだ」
「お前が俺に煙草を吸わせたのは二度目だな。まったく、救いのないガキだ」
「どうも」
 お互い、静かに笑い合う。
 一見何てことはない普通の光景のようだが、二人を知るものがこの場にいたとしたら、そこに吹き荒れるブリザードのあまりの寒さに震え上がるかもしれない。
 今は、ここにいる二人だけが、白く立ち昇る煙の理由を知っていた。
「言っておくが、今の学校は昔よりも相当やり辛くなってるぞ」
「……どういう事だ?」
 榊は、ふうっと白い煙を吐いた。ため息をついたようにも見える。
「おそらくP2の件がきっかけにはなったんだろうが、魔術関連の締め付けがあの頃とは比べ物にならないほどに強固になっている」
 郁実の在学中から、校則でどんなに禁止しても魔術をお気軽に使用する生徒は多かった。そういったものの取り締まりもさる事ながら、魔術実習の在り方なども改めて検討し直し、魔術を使用する事の危険性を重視するようになったのだと言う。
「魔術は、確かに使い方を誤ればとり返しのつかない事になる。だが、正直俺は、今の大和武尊のやり方には賛成できん」
 榊は、目の前にある広大な敷地と、そこに建つ校舎を仰ぎ見た。
「何のための教育だ。専門の機関でなければ教えられない知識と経験を、術を行使するべき人間に与えるのがこの学校の役目だろう。どうして危険だからと実施を制限するんだ。危険な行為であるなら、育てなければならないのはそれを行なう人間の精神の方だ」
 P2計画は、その目的が根底に流れていたとも言える。しかし結果、大勢の殉職者を出す事になり、人命を尊重する学校側にとってのボーダーラインに触れる事となってしまった。
 もっともそれは、本当はP2計画のせいだけではないのだが……。
「学校という社会をもっと大きな社会の中で安定させるために、保身を図るのも道理だろう。だが、危険でない環境で術の使い方だけを教えて、それでどうやって一人前の術師を作るんだ。結局、伸ばすべき術師の力を押さえる事にしかならない。結果、魔術を手品くらいにしか考えられない術師を量産する事になるだけだ。そうまでして学び舎を守りたいのなら、いっそのこと学校などない方がマシだ」
 静かな声音だが、ここまで雄弁な榊を郁実は初めて見た。
「危険思想だな」
「そうでもないさ。別に、学校を壊したいと思っている訳じゃない」
 それが本心からの言葉であるかは計り兼ねたが、榊は自嘲気味とも取れる苦笑いで郁実を見つめた。
「氷村。お前がこれから術師を育てる場所は、そういう所だ。その場に交わってみて、それでいいと思えるならそれも構わない。だが、少しでも疑問を覚えるならそれを殺すな。お前はお前のやり方で、最良と思える方法を見つけろ」
「……何故、俺にそんな事を?」
「ゲームのようにへらへらと笑いながら魔術を使っている奴を見るのがむかつくんだよ。しかも、そういう奴らは増える一方と来てる。……お前は知っている筈だ。自分自身の中に、どれだけ危険な爆弾を抱えて生きているのかを」
「……」
「そしてお前は、自分の意志を貫く事で生じる孤立を、恐れない」
 それは榊の言う通りだった。馴れ合い、へつらう事が当然になって行く中で、押しつぶされ形を変えて行く己の中のオリジナル。それがいつしか後悔へと変わって行くのを黙殺するくらいなら、たとえ全ての他人に否定されようとも自分の考え方を守り通した方がいい。少なくとも、その事で人として間違った事を押し通すような真似はしないという自信は、ある。
 榊は、そんな郁実の性格を良く知っていた。
「お前が教えてやれ。人生に、リセットボタンなんかないという事をな」
「……憶えておくよ」
 周りと無関係に飄々と生きているように見える榊が、いつも誰かに教えようとするのは何故か『生きていくための術』だ。
 世の中なんか捨て去っているようにも感じるのに、放っておけば良いような事も、彼は案外見逃さない。その矛盾は、一体どこで生まれてくるものなのだろうか。
 今の郁実には解らない。
「さて、と、用件はそれだけじゃないんだ。ここでも構わないが、いい加減寒いな。それに、あまり誰かに聞かれたくない話でもある」
「聞かれたくない?」
 榊が動き出すのに、郁実もつられて歩き出した。成る程、確かに身体は冷え切っている。
「俺は構わんが、氷村、多分お前が気にするだろう」
 そう言って出向いた先は、学生街よりも少し下った小さな町の喫茶店だった。行き付けの店でも良かったが、学校関係者が多く出入りする場所で姿を目撃されて、下手な好奇心でも持たれたら面倒だ。
 榊は黙ったまま郁実を促すと、小奇麗な店の扉を静かに開いた。




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